ネルケンの中の私は19歳だった

悲しいバイオリンは響く、
レコードのまわる音が続く、
砂の上を歩くような拍で。

睡眠薬を飲む習慣のある人は、あのときの記憶をなくしてしまっている。
どこの屋上から高円寺の街を一望したのだろう?彼のバイト先までの道順は?
とうの昔に胃液で溶けてしまったのだ。

25歳の私は、何もない2人の未来に少しだけ安堵している。彼から借りた本は母親に捨てられてしまった。根本敬